認知症の方と非言語コミュニケーションを図る音楽療法とは?

厚生労働省によれば2025年には認知症高齢者の数は約700万人に達すると言われているほど、これからもっと身近な病気になりつつある認知症。

認知症と一言で言っても種類はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など大きく4種類存在するが、どの種類の認知症においても、症状が進むと言語によるコミュニケーションが難しくなる場合があります。

その理由は認知症が進むにつれて脳機能が低下することが挙げられますが、そんなときに非言語にてコミュニケーションをすることが大切になります。

私はこれまで児童と高齢者を専門に音楽療法を実践しておりますが、音楽療法の特徴の一つが非言語によるコミュニケーションです。

例えば、通常のカウンセリングであれば、カウンセラーと言語のやりとりをすることが前提となります。

しかし、言語を用いることが難しい認知症の方にとって、カウンセリングを受けるということは困難です。

私たち、もしかしたら特に女性特有なのか、私特有なのかわかりませんが、何がいらいらしたり、自分の思考を整理したいなどと思ったとき、人に話すことで気持ちがスッキリすることってありませんか?

言語が適切に使うことができれば、そのようにして自分の思いを整理したり共感して安心したりすることに活用できますが、言語コミュニケーションが難しい方の場合、イライラしてるけどそれをうまく表現できずに溜めてしまうなどにつながる場合があります。

そんな言語によるコミュニケーションが難しい方の場合、音楽療法は言語を用いず音楽を用いることでコミュニケーションを図ります。

認知症高齢者の方を対象にした音楽療法の映像がありましたので、紹介させていただきます。

彼女が何歳なのかなど詳細はあまり書かれていませんが、概要欄にはこの女性は進行性の認知症を患っているということ、そして言語によるコミュニケーションが難しいと記載がありました。

彼女は音楽療法士(男性)に対して手を伸ばしながら「あああ」と声を発します。

その声を受けて音楽療法士(男性)は「ああああ〜」と優しく歌いかけます。

彼は何かの規制曲などを歌わず、ここで彼女が発した「あああ」という声を音楽的要素として捉え、すぐさま即興で歌にして答えています。

これはあくまでも私の主観なのですが、音楽療法士が歌った「ああああ〜」という即興のメロディは、彼女の笑顔に適した明るい、けど、子供向けの歌のようなとにかく明るい感じではなく、少し憂があるような歌を歌っています。

彼女の声を発する様子から、彼女にとって今どんな歌の質が適切なのかを考え、このようなメロディを歌ったのではないかと私は思います。

音楽療法では同質の原理というものがありますが、同質の原理というのはざっくりいうと自分の気分にあった音楽を聴くことで、音楽に自分の気持ちを代わりに出してもらうという意味です。

きっと音楽療法士は、彼女の発した声を聞いて「こんなメロディがいいのでは」と思い、即興的に歌ったんだと思います。(本人に聞いてないのであくまでも私一個人の予想です)

そして、音楽療法士の歌いかけに対して、女性はこたえるように「ああ」と声を出します。

音楽療法士は少し間を空けて、また歌いかけます。

歌いかけられると彼女は手を伸ばし、「あああ」と発声をします。

しばらくした後、間をたっぷりととった後に音楽療法士はアコーディオンを使って伴奏をつけながら歌いかけると、女性も応えるように体を音楽療法士に近づかせます。

そんなやりとりの中で、1:10あたりから彼女が「あああ」以外の声を発します。

ここです。

音楽療法士は、彼女のこの発声を音楽的表現として捉え、即興的に歌にします。

続けて彼女は「ほうほ」と聞こえるように発声をします。

これまた音楽療法士はこの「ほうほ」という発声を音楽的表現として捉え、即興的に歌にします。

そんなやりとりの後、少し間を空け音楽療法が歌いかけます。

すると↓

彼女は再び体を前のめりにし、笑顔で口を開けます。

それに合わせるように音楽療法士は「あああ〜」と歌います。

…とまぁ、たった2分ほどの映像ではあったのですが、いかがでしょうか?

言葉を用いず、音楽の中で音楽療法士と対象者がコミュニケーションしているのがわかりましたか?

音楽療法というと、「癒しの音楽を聴かせてくれる人」と時折思われる方がいますが、音楽療法というのは、音や音楽を用いて音楽療法士と対象者が関わりながら、対象者の自己表現や可能性を引き出すことを目的として行われます。

このセッションの動画の中で、言語的なやりとりは一切使用されていません。

ですが、音楽療法士が対象者の発した言葉を音楽にしていきながら、関わりを持ち、そして対象者からの行動に結びつけるようなそんな様子が写っています。

このように、言語コミュニケーションが難しい方とも、音楽療法では音楽を用いてコミュニケーションをとることが可能になるケースがあります。

もちろん、万人に効果があるとは音楽療法士として思いませんが、ただ、音楽療法を求めている方は、今非常に多いのではないかと思います。

今回は海外の音楽療法の様子のご紹介でしたが、実際に音楽療法士がどのように音楽を用いて非言語によるコミュニケーションをとり、そして対象者の持っている可能性を引き出すのか。

そんな音楽療法に興味をお持ちの方は、お気軽にお申し付けください。

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(参考引用文献等:実践音楽療法関係の創造を目指して: セラピーでの勘所を解く